'05 August ●ゴッド!忌野清志郎

忌野清志郎は今年でデビュー35周年なのだそうだ。1970年から僕たちは清志郎のいる世界に生きていることになるんだなぁ・・とささやかな幸せを噛みしめる。とはいえこのコラムを書いている今のこの僕は幸せどころか苦労の渦の中に埋れそうだ。なんといても相手は35年間ずーっと先頭を走りつづけているソウルマン、清志郎なのだ。どこから手をつけていいのやら。

デビュー35周年という記念すべき今年はTV-CMの露出も一気に増えた。ざっと並べてみても「JT WALK 歩く男」「エースコック・スーパーカップ JUMP」「ダイドードリンコ・デミタスコーヒー イヤシノウタ」「高橋酒造 純米焼酎 白岳 しろ 赤いくちびるに」「ask.jp 雨上がりの夜空に」「中外製薬 グロンサン」など・・。なにしろあの声だ。TVから流れると思わず手をとめる。

そもそも忌野清志郎の魅力はどこにあるか?まずはあの「声」だ。例の歌唱法はフォーク・グループからロックバンドに移行した頃に確立されたと思うが、あの声は「ぼくの好きな先生」から変わっていない。意図的なものではなく天性の、神様からの贈り物なのだ。
そしてもうひとつはスウィートソウルなマインドだ。反原発(カヴァーズ・発禁騒ぎになった)や、「君が世」のパンクバージョン(冬の十字架)など「反体制」「社会派」の一面がとりだたされた時期もあったが、清志郎の本質は見ようによっては子供っぽくもある思春期の切なさを歌ったRCサクセション時代の数々の名曲の中にあるのではないだろうか。「トランジスタラジオ」や「スローバラード」、井上陽水が歌った「帰れないふたり」を聴くといまでも胸が熱くなるし、そのイメージは今の清志郎を見ても全然変わっていないと僕は思う。

いくつかの資料に「フォーク・グループ時代のRCサクセションは全く売れなかった」とあるが、「ぼくの好きな先生」や「2時間35分」は毎日のようにラジオの深夜放送で流れていて、友人と口ずさんだりした記憶がある。レコードセールスはともかく多くの支持を集めていたし、決して無名の存在ではなかったと思う。(確かにその後しばらく名前を聞かない時期はあったが)それが数年たったある日「紅白歌のベストテン」(ありましたね!)というTV番組でいきなり髪を逆立てて目の上を真っ青に塗った清志郎が「STEP!」と叫んで飛び跳ねているではないか!これはあのRCサクセションと同じRCサクセションなのか?ととても驚いたが、思えばあの日から日本一のロックンロール・バンドに、そしてキング・オブ・ライブに一気に駆け上がったような気がする。

RCサクセションがロック・バンドに転向していく要因は清志郎のブラック・ミュージク志向があると思う。76年に発表した「スローバラード」は完全にR&Bだし、そのアルバムにはタワー・オブ・パワーを参加させている。しかし78年に古井戸のチャボこと仲井戸麗市(彼もまたブルース志向の強いギタリストだ)の加入によってより完全なるロックンロール・バンドとして固まったと思う。
その頃のRCサクセションのライブに行ったことのある人ならそれがどれほど完璧なものだったかわかるだろう。清志郎はミック・ジャガーのように一瞬たりとも気を抜くことのない無欠のフロントマンで、バックには手練のブルーディ・ホーンズががっちりと控えている。曲といえばこれ以上ないほどにライブに相応しいものばかりで僕たちはただただ熱狂するばかりだった。

90年「Baby a Go Go」を最後に解散するが、その後(不確かな記憶だが95,6年か?)一度だけ日比谷野音で再結成ライブを行った。僕は知り合いに頼みまくってなんとかチケットを入手したが、チケットが手に入らなかったファンが数百人も野音を取り囲み、入場する人に向かって「どうやってチケットを手に入れたんだ!」「どんな手を使ったんだ」と怒声を浴びせるという異様な雰囲気で、いたたまれない気持ちだったのを覚えている。解散によって伝説化したRCのすごさを見せつけられた体験だった。

さて、35周年を迎えた忌野清志郎に話を戻そう。
RCサクセションの絶頂期を経験した僕は、ここ数年は自転車に乗ったり絵本を書いたりする清志郎を横目で気にはしていたもののその音楽からは遠ざかっていた。ところが新しいアルバム、その名も「GOD」のプロモーションビデオを見て心底嬉しくなった。このかっこよさといったら!ファッションもますます磨きがかかり、ヘヴィーなナンバー「Rock Me Baby」を歌う姿はまさにゴッド!
久しぶりにライブに行きたくなった。それには激しいチケット争奪戦を勝ち抜かなくてはいけないが。


【BACK NUMBER】

●TVから'70の風が吹いてくる('04 May)
●トータス松本の『TRAVELLER』を聴こう!('04 June)
●破壊と再構築-AEROSMITH『HONKIN' ON BO BO』 ('04 July)
●Summertime あれこれ ('04 August)
●CMが'文化'だった頃・・資生堂『音椿』('04 September)
●これぞお祭り音楽-Black Bottom Brass Band('04 October)
●美空ひばり JAZZを歌う('04 November)
●フレンチポップスブーム?('04 December)
●最後のロック・フロンティア-The Eagles('05 January)
●Alternative rock'n soul-MAROON 5('05 February)
●珠玉のジャズヴォーカルを!('05 March)
●ニューオリンズR&Bのハイライト - Huey "Piano" Smith ('05 April)
●サイケデリック吟遊詩人-DONOVAN ('05 May)
●わたしを野球に連れてって('05 June)
●グッドタイム・ミュージック-The Lovin' Spoonful ('05 July)
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